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2019.11.06 「第八回 電力エネルギー未来技術シンポジウム」講演要旨

「第八回 電力エネルギー未来技術シンポジウム」講演要旨

『発電機器を支える最新材料技術の動向』
屋口 正次
(一財)電力中央研究所
材料科学研究所 構造材料領域 副研究参事

電気は社会インフラの一つであり、一時でも供給が止まると、生活や産業に大きな影響を及ぼす。そのため、発電や送配電等の設備には極めて高い信頼性が要求される。火力発電に関してみると、熱効率向上を目指した作動流体(蒸気やガス)の温度上昇と経済性向上を目指した保守・管理の高度化が進められてきた。また、最近は、再生可能エネルギー大量導入によるバックアップ電源としての運用など、従来とは異なる点での変化も生じている。これらの課題をバランスをもって解決するためには、各発電機器や材料について新しい観点からの研究開発と実機適用が必要である。本講演では、火力発電に関する最新の材料技術の動向と取り組み事例を紹介する。

『デジタル技術を活用した火力発電設備監視の高度化』
鈴木 一真
東北電力(株) 発電・販売カンパニー
火力部火力運営(デジタルイノベーション推進担当)

東北電力(以下,当社)の火力発電所における運転データは,従来から,東芝製のプラント管理用計算機に蓄積し管理を行ってきた。この蓄積した運転データと,新たなデジタル技術のAPR(Advanced Pattern Recognition)を活用し,火力発電設備の監視を高度化するため,東芝と共同で2017から2018年度にかけて技術検証を行った。 デジタル技術として,プラント監視ソフトウェアEtaPROを用いて検証を行った結果,従来の監視方法よりも早く設備異常兆候を検知できることが確認でき,検証期間中,実機の設備異常を3件検知した。この成果を踏まえ,2019年度はEtaPROを用いたシステムを当社火力発電所へ本格導入していることから,この取り組みについて紹介する。

『3方向放射線透過法による配管肉厚測定技術の開発』
橋井 剛
富士電機(株)
発電プラント事業本部 火力・地熱プラントサービス部 主席

近年、発電プラントの安定稼働の観点から配管の肉厚管理(減肉)の重要性が増している。従来の超音波パルス反射法(UT)では配管保温材を取り外す必要があるが、放射線の減衰特性を利用することで保温材付きでの肉厚測定が可能な装置を開発した。測定方法は放射線を3方向から照射するスリービーム方式(特許第5375541号)を採用し、測定結果は数値で表示できる。東北電力株式会社殿との共同開発研究により火力設備配管減肉管理技術規格(JSME S TB1-2016)に新しい試験方法として認定された。低レベル放射線源を使用する表示付認証機器のため、有資格者、管理区域の設定、使用許可などは不要で、取り扱いが容易な小型・軽量装置である。

『次世代火力発電を支える材料・製造技術』
久保 貴博
東芝エネルギーシステムズ(株)
エネルギーシステム技術開発センター 技監

脱炭素化が社会の大きな潮流となる中、火力発電所には一層の熱効率向上が求められている。蒸気タービンは、コンバインドサイクルでも石炭火力でも火力発電所の主要機器であり、熱効率向上のための技術開発が続けられてきた。さらなる熱効率の向上のためには、蒸気温度を上げることおよび機器の損失を低減することが重要である。本講演ではより熱効率を高めることができるA-USCなどの次世代火力発電を支える材料技術について、材料を開発する側の視点から概説する。さらにそれらの材料を製造する製造技術についても述べる。

『火力機器への革新的構造材料(3Dプリンタ)』
今野 晋也
三菱日立パワーシステムズ(株)
ターボマシナリー本部 AM技術推進室 主幹技師

近年、金属材料によるAdditive Manufacturing(いわゆる3Dプリンタ,以下AM)の適用が広まりつつある。特に欧米では航空機エンジン、医療、少量生産の自動車部品や産業用ガスタービンへの適用事例の報告が増えている。しかし、造形後の高温強度の問題で火力プラントの高温部に用いる部品の実機適用事例の報告はない。三菱日立パワーシステムでは、高温強度に優れたAM材を開発するため、原料となる粉末の製造装置の開発、合金成分の最適化を進めて来た。本講演では、開発した粉末製造装置の特徴、当該装置を用いて開発した高温強度に優れたAM用新材料、当該材による実機部品の製造結果について紹介する。

『発電用ガスタービンプラント信頼性向上の取り組み』
柴沼 徹
(株)IHI原動機
陸用事業部 技師長

IHIは航空転用型ガスタービンを用いた数多くの発電設備の設計・製作・据付からアフターサービスまでライフサイクルに亘るサービスを提供して来た。本シンポジウムにおいてはお客さまの発電設備の信頼性向上を目的とした運用支援サービスの取り組みについて述べる。IHIでは1990年代から遠隔監視に取り組み,お客さまと設備運転データを共有し,特にトラブル発生時の早期復旧支援に効果を上げて来た。さらに2000年代以降は運転データの診断を加えることで,トラブルを未然防止する技術に注力している。遠隔監視・データ診断を中心としたお客さま設備の安定運用を支えるトータルサービスを紹介する。

『石炭火力のクリープボイド初期検出システム』
三原 毅
東北大学
大学院工学研究科材料システム工学専攻 教授

著者らは、特に老朽化石炭火力発電施設における、高Cr鋼配管の保守システムに関連して、クリープ損傷における深部細粒HAZ部に発生するTypeⅣクリープの初期クリープボイドの実機での検出法について、定期検査での実用を目指し、数μmのマイクロボイド密集段階を計測できる、新しい音響映像装置を開発してきた。本講演では、計測システム開発に先立ち、研究室で実施した予備実験結果とその後の開発の経緯を説明し、現在発展形としてNEDO事業として取り組んでいる、定期検査における損傷の定点モニタリングシステムの開発について、その開発状況もお話しする。

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